理事会からメッセージ
2015/03/04
 
第7回 2015年度・介護報酬切り下げに対する問題提起
1. 2015年度・介護報酬の大幅な切り下げ(特に特別養護老人ホームを標的にした)の理由として、政府は、以下の2項目をあげている。

@ 内部留保
A「特養」は、「中小企業」より儲けている。

これらの言い方(大いなるまやかし)の根拠は、アベノミクスの経済政策にある。「第1の矢(金融緩和)、第2の矢(財政政策)につづいて第3の矢(成長戦略)の骨子である『新・成長戦略』が発表された。医療、介護、保育、労働、教育、農業分野で規制を緩和し、公的サービスを民間に売り渡す方向へとなだれを打って進もうとしている。― 中略 ―『岩盤規制といえども、私の『ドリル』からは無傷ではいられません』と首相自ら豪語する通り、元来が正当な権利や公共の利益に対して『既得権益』とか『岩盤規制』といったレッテルを貼り付け、攻撃する。その『解体』をショーアップするのは、メディアの担当だ。」(世界8 2014)
つまり第3の矢を強引に推し進める手始めとして、特養と中小企業を同一の土俵に置いて、特養を、社会保障の一環としての老人福祉法から外そうと画策していると思われる。ここで上記の2項目を、介護報酬切り下げの理由にあげる欺瞞性(誤り)について指摘したい。

「内部留保」internal reserves 当期の利益から税金、配当金、役員賞与など社外に流出分を差し引いた残りを蓄積したもの。この内部留保と資本金、資本準備金の合計を株主資本といい、総資産に占める割合が高ければ高いほどその会社の安定性が高いといえる。(経済新語辞典2000年版 日本経済新聞社)」
とあるように、営利の株式会社に適用する言葉であるにもかかわらず、非営利の社会福祉法人が経営の安定のために行う積立金を「儲け」であるかのようにきめつけるのは明らかな誤謬である。

「特別養護老人ホーム」…1963年に制定された老人福祉法によって制度化された介護を必要とする原則65歳以上の高齢者のための施設であり、社会福祉法人によって運営される。

「社会福祉法人」…社会福祉事業を行うことを目的として、社会福祉事業法(1951=昭和26年、法律45号)により設立される法人である(22条)。社会福祉法人は、民法上の公益法人よりも公益性の強い特別法人である。したがって社会福祉法人は、経営が安定しており、設立の目的が達成される基盤を備えている必要があるから、その目的とする社会福祉事業を行うために必要な資産を備えていなければならない。(24条)
(現代福祉学レキシコン 雄山閣出版)

「中小企業」…中規模または小規模の企業。中小企業基本法によれば鉱工業・運送業などでは資本金一億円以下または従業員数が300 人以下、小売業・サービス業などでは資本金一千万円以下または従業員五十人以下、卸売りでは資本金三千万以下従業員百人以下の企業をいう。

以上の定義から「特養」と「中小企業」を同じ土俵で比較するのは、法的観点から明らかな誤りである。

2. 社会福祉の劣化・矮小化そして著しい後退の要因は、国際的な経済のグローバリズムとその根幹としての経済的には市場原理主義であり、政治的には新自由主義・新保守主義である。「いまの経済学は、これまでのケインズとも違うし、あるいはマルクス経済学とも違う。経済学の原点を忘れて、その時々の権力に迎合するような考え方を使っていて、その根本にあるのが、やはり市場原理主義というか、儲けることを人生最大の目的にして、倫理的、社会的、あるいは文化的な、人間的な側面は無視してもいいという考え方がフリードマン以来大きな流れになっている。」「犯罪の経済学 ― それは人を殺した時の楽しみと捕まって死刑になる時の痛みを確率論的に比較して殺す楽しみが大きければ殺し、ペナルティが大きければ殺さない。それは恐ろしい考え方であり、人間観です。しかしこの極端な、悪魔的な考え方が市場原理主義の根幹を貫いていることをわすれてはならない。」(宇沢弘文・内橋克人「始まっている未来 新しい経済学は可能か」岩波書店)

3. 金融資本主義・投機資本主義の本質は収益のみを追求する。その結果が富裕と貧困の極端な格差社会となっている。アベノミクスにおいては、金融緩和と称し、金融利益優先を行い、財政政策と称し、大企業優先の法人税の切り下げを行っている。

4. 市場原理主義政策は、医療、介護、保育、労働、教育にも及んでいる。2000年施行の介護保険法は、介護のビジネス化をもたらし、収益優先の介護ビジネス業が増加(急成長)している。一方、貧困ビジネスも行政と結託して、生活保護法を悪用し、サービス付き高齢者住宅や悪質な有料老人ホームの資金に化けている。

5. 介護保険法施行により、介護が市場原理主義になることにより、経営の合理化、効率化と称し、大企業にならって、リストラ、非常勤化、労働者派遣を行い、人件費削減、また業務の合理化の一環として、給食部門などのアウトソーシングを行った。
その結果、介護職の不足が社会問題となっている。このまま市場原理主義の介護ビジネスを強行していけば、倒産する介護ビジネス会社や社会福祉法人もでてくるであろう。

6. 介護労働の健全化
社会福祉法人の特養においても、介護ビジネス会社の介護施設においても、労働環境を健全にしなければならない。健全な職場環境とは、@公平な給与システムをつくること。A給与基準は、その時代の貨幣価値と生活水準を基準に労働に見合った等価な支給とする。B職員の配置基準も最適なサービス(ケア、介護、看護)を行えるに十分なものとする。C人間を対象にした働きの精神的な価値を高め、仕事に誇りをもって取り組めるようにする。
そのような観点からは、常勤職員を基本とし、いかなる部所においてもアウトソーシングは行わないことが原則である。

7. 現在の制度においては、介護施設の経営は、介護保険からの介護報酬によっている。その肝心の介護報酬は施行から15年、年々減額され、それが職員給与(特に介護職員)に反映し、低水準となっている。介護の仕事(労働)は市場原理主義とは真逆である。それを営利追求の手段としてしまっては、利用者にとっても働く者にとっても、生きる価値を見いだすことは不可能になってしまう。まず、政府がなさねばならないことは、介護報酬を十分支給することである。その積算根拠は6に記載してある。

8. 最後にどうしても言わなくてはならないこと。どんな人間社会にも、社会的弱者は存在する。貧困、低所得、障害者、病人、子供、高齢者などである。そしてそのような危機は誰にもいつ訪れるか予測できない。だからこそそれらの事態に対しては、社会的責任において対処することが求められている。だが市場原理主義(新自由主義)一辺倒のアベノミクスにおいては、彼らは完全に排除されている。このような政治を強引に続けることは絶対に許してはいけない。